June 22, 2009

中国の全国人民代表大会(国会)常務委員会は2009年2月28日、「食の安全」を確保するために新たな「食品安全法」を可決した。同法は6月1日から施行されたが、最終製品だけでなく原材料に使う農薬や肥料まで幅広く検査するという厳しい内容になっている。中国の食の安全が高まることは、かなりの食品を中国から輸入している日本にとっても歓迎すべきことだ。日本としてはトレーサビリティ・システムなどビジネスチャンスでもあるが、日本から中国への食料輸出が影響をうける可能性もある。


6月1日から施行となった中国の食品安全法では、食品の生産や加工だけでなく流通や飲食サービス、食品の包装材や容器、洗浄剤、食品添加剤などなど、食に関するあらゆるものが規制の対象となっている。国や地方による検査は徹底したものとなり、違反したときの罰則も強化された。たとえば芸能人など有名人が広告に出演した食品が問題を起こした場合、その関係企業の経営者はもちろんだが広告に出演した芸能人までも連帯責任を負わされることになった。それほど厳しい内容なのだ。そこまで厳重に管理するとなると、重要になってくるのがトレーサビリティの確保。

日本ではBSE(牛海綿状脳症)の発生以来、安心できる牛肉が市場で提供されるように、育成・生産の情報がきちんと管理され、さらに消費者も情報を追跡できるトレーサビリティの仕組みが徐々に浸透しつつある。中国でも、この度の食品安全法の施行によって、トレーサビリティのニーズは急速に高まっていくといわれている。法律での罰則が厳しいだけに、むしろ日本より浸透は早いのではないかとの観測もあるほどだ。


日本の食料輸出の可能性と危険性

中国といえば「食料輸出国」のイメージばかりが強いが、実は「食料輸入国」でもある。2004年ごろから自給率が下まわるようになり、輸入を増やさなければならない状況になっているのだ。昨年あたりから中国当局は、食料輸出を抑制する動きさえみせている。これからの日本にとって中国は、食糧の輸出先としても期待されているのだ。

すでにコメや和牛などの高級品が輸出されており、中国の富裕層を中心にファンを増やしつつある。この動きは今後さらに活発化しそうな気配になっている。食料でも大量生産では日本は中国にはかなわないが、技術力を生かした高級品なら十分に日本は中国と競争できるのだ。将来、安価な食品は中国に頼るが、高級品は日本が供給するという棲み分けも成立するかもしれない。

ただし、忘れてならないのが食品安全法の存在である。中国の日本に対する姿勢は、過去と同じように、これからも厳しい、という前提でいなければならない。そうなると、食品安全法にもとづく当局による検査も、かなり厳しくなることが想像できる。日本側が少しでもおかしなことをすれば、ここぞとばかりに攻撃されることはまちがいない。

日本では食の安全への関心が高まっているとはいえ、すべての面でうまくいっているわけではない。和牛の表示偽装やウナギの産地偽装など、日本における食関係でも「偽装」は珍しくないのだ。その問題を放置して中国への輸出を増やしていけば、いつか「偽装」が発覚しないともかぎらない。たとえ日本側では常識と思っていたことも、中国では通用しないことなど山ほどある。

そしてその可能性は、中国の食品安全法が施行されたことで、かなり高まったといえる。高級食料品の輸出は日本の農業界の発展にとっても重要になっていくなか、中国への輸出は、食料安全法をじゅうぶんに意識した体制をとっていくことが必要。



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